自然との境界 名護市 - 2024

敷地は沖縄の北部、豊かな森林が広がり「やんばる」という愛称で親しまれている地域に位置する。
その自然豊かな地に県内外で多くの事業を展開する沖縄の不動産開発企業が、新たな拠点とするために計画した事務所である。観光を軸に開発が進む沖縄県では、さまざまな場所で日々新しい建築物が建てられている。その中で、可能な限り敷地内の樹木を残しつつ、木々に寄り添うように建物を配置することで既存の樹木と新しい建築物との調和を最も考慮した。外観は、コンクリート打ち放しと木材を特殊加工したアコヤ材で仕上げることで、存在感を和らげ周辺環境に対し建築物としての主張を少なくした。屋根は勾配屋根とすることで視覚的に多くの自然を内部空間に取り込みむとともに、落ち葉対策にも役立つ計画とした。部屋に至る通路の部分を深い軒のある外部空間とし、そこに植栽を施すことで内部と外部の境界を抽象化した。直接的に外部空間を建物内に取り込むことによりガラスなどを介することなく、雨や風、光や影を感じる曖昧な空間が生まれた。この平面・断面的構成により、自然との境界線が抽象化され自然の力をより感じることができる建築となった。坪庭は、やんばるの在来植物であるヘゴやシダ類とやんばるで採取できる本部石を組み、この場所に昔から存在している美しい自然を体感できる空間とした。屋根の開口部から降り注ぐ豊かな雨水は、植物を育み、石肌を照らす。沖縄独自の美しい曲線でモルタルを固定せず組まれた石積みには、雨水が保水され緩やかに優しく植物を育む。沖縄の観光資源は自然が中心であり、不動産会社の事務所建築が自然と一体化し、訪れる人々が自然を感じられるような建築であることが重要である。そうすることで、自然の価値を守りながらも新しい沖縄を築いてく拠点となることを願う。